腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果〜vol.5 PEWの改善について〜

医療

皆さんこんにちは、K田です。

今回は、腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果〜vol.5〜ということで『PEWの改善』についてお話していこうと思います。

腎臓疾患において、筋力低下や栄養不足が問題となりがちですが、特に「サルコペニア」や「PEW(Protein Energy Wasting)」は、患者さんの健康や生活の質を左右する重要な要因です。

腎臓リハビリを行う理学療法士として、透析を受ける患者さんの筋肉量や栄養状態を改善し、QOL(Quality of Life)向上を目指すことが大切です。

今回は、『PEW』の改善に効果的な運動療法について解説していきます。

この記事はこんな人にオススメです。

  • 透析医療に従事している医療従事者
  • 腎臓リハビリに携わる人
  • 腎臓リハビリの効果について知りたい人

PEWの基礎知識

PEWは、慢性疾患に伴うタンパク質・エネルギー不足症で、筋肉や脂肪組織の消耗が進行する状態です。

正式名称は「Protein-Energy Wasting(タンパク質エネルギー消耗)」と言います。簡単に言うと、体のタンパク質とエネルギーが減っていく状態のことです。

過去にこちらの記事でも解説していますので、ぜひ御覧ください!

CKD患者にとって、PEWは大きな問題になります。なぜなら、PEWにより体重減少、筋肉量の低下、体力の低下が生じるからです。さらに、免疫の低下にも影響を与えます。

PEWの原因はいくつかあります。例えば、食欲不振、炎症反応の増加、ホルモンバランスの乱れなどが挙げられます。また、透析患者は、透析によって栄養が失われることもPEWの一因となります。

PEWは、患者さんの生活の質を下げるだけでなく、病気の進行や合併症のリスクを高める可能性があります。だからこそ、早めに対策を立てることが大切なんです。

適切な栄養管理と運動療法を組み合わせることで、PEWを予防したり、改善したりすることができます。特に運動療法は、筋肉を維持し、代謝を活発にする効果があるので、PEW対策に必要不可欠と言えます。


運動療法によるPEW改善のメカニズム

前項でPEWは、慢性疾患に伴うタンパク質・エネルギー不足症で、筋肉や脂肪組織の消耗が進行する状態とお伝えしました。

CKD 患者での筋タンパクの分解を防止するには、きちんと食事療法を行うことに加えて、運動することがとても重要言われています。

すなわち、筋タンパク合成の最大の刺激因子は運動であり、運動療法は、PEWの改善に有効なのです。

本項では、そのメカニズムをお伝えしていきます。

タンパク質合成の促進

運動は筋肉でのタンパク質合成を促進します。これにより、PEWの主要な問題であるタンパク質の消耗を直接的に改善します。

タンパク質合成のメカニズムとしては、

  • 運動による筋細胞への機械的刺激
  • 細胞内へのアミノ酸トランスポーター発現の増加による、細胞内へのアミノ酸取り込みの促進
  • テストステロンなどの筋タンパク質合成を刺激するホルモン分泌の促進
  • 運動後のはIGF-1の産生を促進し、これらはタンパク質合成を促進

といった内容が報告されています。

すなわち、運動刺激により、筋細胞への刺激やIGF-1といったホルモンの分泌促進効果が生じ、蛋白合成が促進します。

代謝の活性化

運動により、筋肉でのエネルギー需要は急増します。体内では、代謝を活性化させ、タンパク質やエネルギーの利用効率が向上します。

この時体内では

  • 筋細胞内のエネルギーセンサーであるAMPKが活性化。
  • AMPKは様々な代謝経路を調節し、グルコースの取り込みや脂肪酸の酸化を促進。
  • 筋収縮を通じて、PGC-1αという重要な転写共役因子の発現が増加。
  • PGC-1αは、ミトコンドリアの生合成や脂質代謝の発現を促進。
  • インスリン感受性を高め、筋肉でのグルコース取り込みを改善。
  • 脂肪組織からの脂肪酸動員を促進し、全身のエネルギー代謝が活性化。

といったメカニズムが生じています。

これらの複合的なメカニズムにより、運動は代謝を総合的に活性化させるのです。

炎症反応の抑制

運動には慢性的な炎症状態を和らげる効果があり、PEWの一因である炎症を軽減します。

炎症反応を軽減させるメカニズムは以下のとおりです。

  • 運動により炎症を抑える役割のあるIL-10やIL-1raの産生を促進。
  • 同時に、同じく抗炎症作用のあるマイオカインと呼ばれる物質を放出。。
  • 副腎皮質刺激ホルモンの分泌を増加させ、抗炎症作用のあるコルチゾールの産生を促す。
  • 交感神経系を活性化し、抗炎症作用のあるアドレナリンやノルアドレナリンの分泌が増加。
  • 定期的な運動は内臓脂肪を減少させ、脂肪組織由来の炎症性物質の産生を抑制。

これらの複合的な作用により、運動は全身の炎症反応を効果的に抑制します。

食欲の増進

運動を習慣化すると、代謝が活発になり、適度な食欲増進につながる可能性もあります。

PEWでは食欲不振が問題となることが多いため、これは重要な改善メカニズムです。

筋肉量の増加

運動によって筋肉量が増えると、基礎代謝が上がり、長期的なエネルギー消費のバランスが整います。

筋肉量が増えるメカニズムは以下のとおりです。

  • 運動刺激により、筋細胞内のリボソームが増加し、アクチンやミオシンなどの筋タンパク質の合成が活発化し、個々の筋線維が増大。
  • 運動で筋線維の外側にあるサテライト細胞を刺激⇨筋線維の数と太さが増加。

理学療法士としてのサポート

理学療法士として最も重要な役割は、適切な運動療法を提供することです。

運動療法の専門家として、透析患者が無理なく運動療法を続けられるよう、定期的に進捗を確認しながらモチベーションのサポートを行う必要があります。

また、食事に関するアドバイスや看護師・栄養士らとの連携も重要です。

患者が感じる体調の変化や疲労感を細かく聞き取り、最適なプログラムを作成していくことが、長期的なPEWの予防・改善に繋がります。


まとめ

今回は『腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果〜vol.5 PEWの改善について〜』というテーマで話を進めてきました。

本記事のまとめは以下のとおりです。

PEWは慢性疾患に伴うタンパク質・エネルギー不足症で、どのCKD患者にも当てはめることのできる、重要な問題です。

適切な運動療法の提供と多職種連携を通じて、PEWの予防・改善を目指していきましょう。

この記事が、皆さんの診療の一助となれば幸いです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

あとがき

今年4月に発売された、腎臓リハビリテーションの中でも比較的新しい書籍です。

栄養面についても触れられているため、興味のある方はぜひ手にとって見てください。

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