透析患者さんの抱える問題点について

医療

こんにちは、K田です。

今までいくつか腎臓リハビリテーションについての記事を執筆してきましたが、ふと思いました。

『そもそも、透析患者さんの抱える問題点って知られているのか?!』と!

いくら運動療法の効果があると紹介しても、何故運動療法が必要なのかという根本的な問題を理解する必要があります。

そこで今回は、基本に立ち返り、【透析患者さんの抱える問題点について】というテーマで話を進めていこうと思います。

この記事はこんな人におすすめです!

  • 透析医療に携わっている人
  • 腎臓リハビリテーションについて興味のある方
  • 透析患者さんの問題点について知りたい人

透析患者さんの抱える問題点

透析患者さんの抱える問題点と言って、みなさん最初に何を思い浮かべるでしょうか?

シャント?浮腫み?心不全? 

色々思いつくかと思いますが、先行文献によると以下のような問題点が挙げられています。

日本内科学会雑誌第105巻第7号 上月 正博先生の寄稿から引用

この中でも、特に循環器系については透析患者さんのADLや予後に影響する大きな因子です。

透析患者さんにおいては、腎臓事態の問題よりも心血管疾患による影響のほうが多く出現するとも報告されており、現に私が関わった患者さんでも多くの方が心血管イベントで入院したり、残念ながら亡くなってしまったという例も存在します。

ざっとまとめると上記の表のようになりますが、これをもう少し詳細に説明していこうと思います。

循環器系

透析患者さんの死因として最も多いのが心不全です。

具体的な数字を上げると、心不全(27.2%)、心筋梗塞(4.5%)、脳血管障害(7.5%)等の心・血 管障害で死亡する割合は39.2%と報告されています。

これは、透析患者さんは体液コントロールが難しく常に容量負荷の状態にあるため、それが高血圧や心機能障害出現の原因となっているためと考えられます。

また、糖尿病性腎症や高血圧といった生活習慣病が透析の基礎疾患となるケースが増加しており、これらの病気自体が心血管リスクを高めます。

さらに、カルシウム・リン代謝障害であったり、高齢化が進む中で、血管の柔軟性低下や動脈硬化が進行し、循環器系の負担がさらに増大します。これらの要因が絡み合い、心臓や血管への負荷が高まることで、心不全や他の合併症のリスクが上昇するのです。

腎性貧血

腎性貧血は、透析患者さんでよく見られる合併症の一つです。

その主な原因は、腎臓がエリスロポエチンというホルモンを十分に作れなくなることです。

このホルモンは骨髄で赤血球を作る指令を出す役割を持っていますが、慢性腎疾患が進行するとその合成能力が低下し、赤血球の産生が不十分になります。

結果として、全身の組織に酸素を届ける力が弱まり、疲労感、息切れ、集中力低下などの症状が現れるのです。

また、貧血が進行すると、心臓への負担が増加し、さらなる循環器系の問題を引き起こす可能性もあります。

代謝・免疫系

透析患者さんでは、代謝および免疫系に多大な影響が及びます。

まず、インスリン感受性の低下が挙げられます。これは、透析を受けることにより、血糖代謝が障害され、糖尿病や心血管疾患のリスクが増加する原因となります。

また、透析患者さんでは筋蛋白の異化亢進が見られ、これが進行すると除脂肪体重の減少やサルコペニア(筋力低下)を引き起こし、患者の身体的機能を低下させます。

さらに、透析中にアミノ酸や微量栄養素が透析液に流出するため、慢性的な栄養不足を招くことが少なくありません。

また、慢性炎症に関連するサイトカインの増加も深刻な問題です。

これらのサイトカインは、動脈硬化や血管内皮機能障害を引き起こすだけでなく、線維化を進行させる要因ともなります。

免疫系が抑制されることにより、炎症と線維化の悪循環が形成され、全身の臓器に対するダメージが蓄積します。

これらの病態が相互に影響し合い、透析患者の予後に重大な影響を与えるといわれています。

筋・骨格系

透析患者さんでは、筋力低下が深刻な問題となります。

腎臓リハビリテーションでも特に問題として挙げられるのがこの点でしょう。

これにはいくつかの要因が関与しており、まず廃用性筋力低下が挙げられます。

下の図は、長期の安静に伴う筋機能低下のメカニズムです。

九州体力医学研究所 松嶋肖子先生の文献から引用

透析治療中やその前後での体動の制限、長期間の安静状態が続くことで、筋肉は使用されず、次第に筋力が低下していきます。

平均的な透析時間は4〜5時間/日の施設が多いと思いますが、週換算とすると12〜15時間は透析治療に費やされます。

さらに、透析開始前後の待機や止血時間、あるいは低血圧症状があれば、13〜16時間以上/週は治療に関連した安静状態にある、と考えらます。

さらに、透析後は疲労感が強くなるため、帰宅後も横になったり座ったりして、安静に過ごす方も少なくないはずです。

そして長期の安静が続くと、筋力・筋持久力ともに低下を認めてきます。

また、尿毒症性ミオパチー(尿毒症による筋肉障害)は、尿毒症の進行に伴い筋肉が萎縮し、筋力が低下する状態を指します。

この病態は透析患者に特有で、通常の筋力低下とは異なり、痛みを伴うこともあります。

尿毒症が神経に影響を与え、運動神経の障害が進行することにより、筋肉の収縮力が低下するのです。

これらが複合的に作用することで、患者の筋力は大きく損なわれ、ADLや自立度が著しく低下してしまいます。

骨・関節系

透析患者において、骨・関節系の問題は深刻であり、腎性骨異栄養症(Renal Osteodystrophy)と呼ばれる状態がよく見られます。

腎機能が低下することで、カルシウムやリンの代謝が障害され、これが骨に異常を引き起こします。

腎性骨異栄養症にはいくつかのタイプがあり、例えば線維性骨炎は骨の硬直と増殖を伴い、骨軟化症は骨が軟らかくなり、変形を引き起こします。

また、無形性骨症は骨が正常な構造を失い、骨密度が低下する状態です。これらの骨病変は、透析患者において骨折や痛みを引き起こし、身体的な負担を増大させます。

さらに、透析患者に特有の合併症として透析アミロイドーシスがあります。

これは、透析により体内に蓄積したβ2-ミクログロブリンが関節や骨に沈着し、関節の痛みや可動域制限、さらには骨破壊を引き起こす疾患です。

透析アミロイドーシスは特に長期間透析を受けている患者に見られ、関節に強い痛みを伴い、日常生活に大きな影響を及ぼします。

心理・精神系

透析治療を受ける患者において、心理的ストレスは大きな問題です。

治療に対する不安や病気への恐れ、長期にわたる医療依存へのプレッシャーが患者の心に重くのしかかります。

透析に伴う身体的な不調頻繁な通院生活リズムの乱れなどが、精神的なストレスを引き起こし、うつ症状や不安障害を助長することがあります。

これらの心理的な負担は、患者の治療へのモチベーションを低下させ、治療の継続性やADLに影響を与える可能性があります。

また、透析治療の影響は生活の質にも深刻な影響を及ぼします。

定期的な透析によって日常生活の自由度が制限され、仕事や社会活動への参加が難しくなることが多いです。これにより、患者は孤立感を感じることが増え、生活全般に対する満足度が低下します。

特に、透析が患者の日常に占める時間が長くなるほど、生活の質が低下し、心理的な負担が増大する傾向があります。

運動耐容能

透析患者さんにおいて運動耐容能の低下は、身体的な健康だけでなく、生活の質にも大きな影響を与える重要な問題です。

実際にはどの程度運動耐容能が低下しているのでしょうか?

運動耐容能は以下の通りに報告されており、

  • 酸素消費量:健常人の50~60%(15ml/Kg/min)
  • O2輸送効率(FO2):健常人を100%として48%、ESAによる治療後は84%
  • 下肢筋力:健常人の40%
  • ADL:健常人の50%(透析日が著しく低下)

いかに運動耐容能が低下しているかがおわかりいただけるかと思います。

特に透析中は体内の電解質や水分バランスが変化するため、疲労感・筋肉のこわばりが起こりやすく、身体活動を阻害する要因となり、活動量の低下に繋がります。

また、先述の通り尿毒症性ミオパチーやサルコペニア(筋肉量の減少)などの病態が進行することで、筋力が低下し、身体的な活動がますます制限されるのです。

さらに、透析患者は運動後の回復に時間がかかるため、運動耐容能の低下が日常生活における自立性の低下にもつながります。

これらの要因が重なることで、透析患者は身体的な不自由を感じることが多く、心理的な負担も増すことになります。

まとめ

今回は、【透析患者さんの抱える問題点について】というテーマで話を進めてきました。

こちらの記事で紹介した通り、透析患者さんが抱える問題は多岐にわたります。

これらの身体特性について理解を深めることで、日々の臨床業務でより効果的な治療を行うことができるようになると思います。

しかし、本記事で紹介しきれていない内容もまだまだありますので、しっかりと勉強したい方は、何か一冊専門書を手にとって見ることをオススメします。

こちらにオススメの専門書を紹介しておきますので、選ぶ際の参考にしてみてください。

①基礎からわかる透析療法パーフェクトガイド

②実践!腎臓リハビリテーション入門

この記事が、皆さんの透析患者さんへの理解に繋がり、日々の臨床のお役に立つことがあれば嬉しいです!

最後までごらんいただき、ありがとうございました。

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