理学療法士が解説、脊髄梗塞について

医療

こんにちは、K田です。

本日仕事中、何気なくテレビに目を移すと、驚きのニュースが飛び込んできました。

「たいそうのおにいさん」として有名な、タレントの佐藤弘道さんが、脊髄梗塞を発症し、芸能活動を一時休止し、療養生活に入るとのことです。

これには正直目を疑いました。

というのも、私が子供の頃はまさにリアルタイムで「ひろみちおにいさん」を見ていたからです。

しかも病名が「脊髄梗塞」・・・。

前の病院に勤めていた頃、同様の疾患の患者さんを担当する機会がありました。

ちょっとキャラが濃いぶっ飛んだ経歴の持ち主の人でしたが、「中々良くならないなぁ」とぼやいていたことを思い出しました。

そんなかんなで色々思い出すところもあり、今回は脊髄梗塞についてお話を進めていこうと思います。

この記事はこんな人にオススメです。

  • 脊髄梗塞について知りたい人
  • 脊髄梗塞のリハビリについて知りたい人
  • 脊髄梗塞の転機について知りたい人
  • 昔、ひろみちおにいさんを見ていた人

脊髄梗塞とは

脊髄梗塞の概要

「脳梗塞」という病名は聞いたことがある人が多いと思いますが、「脊髄梗塞」という病名を聞くのは初めてという人も多いのではないでしょうか。

脊髄梗塞とは、脊髄への血液供給の急性閉塞によって引き起こされ、関連する部位の神経症状を引き起こす病気です。

脳や筋肉同様、脊髄にも酸素や栄養を送るために血管が延びています。

脊髄は腕や足への神経の通り道ですが、そこへの血液が途絶えると、そこにある神経組織は機能しなくなってしまいます。

脳梗塞では、脳に血液を送る血管が詰まるため、栄養や酸素が行かなくなった脳細胞が死んでしまい、そこから身体へ命令を送れなくなります。そのため片麻痺や感覚障害、高次脳機能障害が出現します。

それに対し脊髄梗塞は脳から命令は出ているのですが、それを伝える経路が途絶えてしまっている状態です。

脊髄からは左右対称に神経が出ているため、脊髄梗塞になると、両方ともに麻痺等の神経症状が出現します。

脊髄梗塞の症状

脊髄梗塞の初発症状として、「通常は緊張を伴う突発的な背部痛が周囲に放散し、その後数分以内に両側性かつ髄節性の弛緩性筋力低下と感覚消失が起こる」とされています。

以前私が担当した方も、「座っていたときに腰が熱くなったと思ったら脱力して動けなくなった」と話されており、まさに上記と同様の症状が現れたと言えます。

ひろみちおにいさんも下半身麻痺となり、歩行困難となっていると報道がありましたが、上記の弛緩性筋力低下が生じているものと考えられます。

その他の症状については、以下の通りになります。

  • 感覚障害
  • 排尿・排便障害
  • 呼吸障害(障害部位による)

脊髄梗塞後の転機について

脊髄梗塞の回復の見込みですが、これに関しては、あまり楽観的なことは言えません。

先行研究によると脊髄梗塞の患者さんの転帰を長期(3年間)にわたって追跡した結果

  • 23%の方が死亡
  • 生存者のうち、42%の方が車椅子を利用
  • 54%が尿道カテーテルを挿入
  • 29%の方が疼痛を有していた

という結果が報告されています。

しかし、同じ論文内で、このようにも記されています。

  • 最終的に58%の方が歩行補助具の有無に関わらず歩行可能であった。
  • 患者の機能回復のペースは様々であり、機能回復した患者のほとんどでは徐々に回復が進む場合が多く、より長い期間にわたり回復が続く。
  • 完全な対麻痺(両下肢麻痺)と感覚喪失を呈する患者でも、数ヶ月〜数年かけて大幅に改善する可能性がある

この文献によると、約6割の方が最終的には歩行可能であった報告されており、大変な病態の中においても、これはポジティブな情報と言えるのではないでしょうか。

脊髄梗塞のリハビリについて

脊髄梗塞のリハビリについては各職種のサポートが重要となってきます。

ここでは、理学療法・作業療法・言語聴覚療法・心理療法の4つについて紹介していきます。

理学療法

理学療法は、運動機能の回復を目的としたリハビリテーションです。

具体的には、以下のような内容を行います。

  • 筋力訓練: 麻痺した筋力の改善を図り、日常生活に必要な筋力を強化します。
  • 歩行訓練: 歩行に必要な筋力やバランス感覚を訓練し、歩行能力の再獲得を目指します。
  • 日常生活動作訓練: 着替え、食事、入浴など、日常生活動作に必要な動作を練習します。入院当初は、車椅子での移動が主になるため、今までの生活様式とは大きくことなります。その中でストレスなく生活できるよう、動作の習得が必要です。
  • 装具療法: 装具を装着することで、歩行や日常生活動作を容易にします。
  • その他の訓練: TENS、EMS、ロボティクスを用いるリハビリテーションも確立されつつあります。有名なものがCyberdyne社が開発した「HAL®(Hybrid Assistive Limb®)」やトヨタ自動車と藤田医科大学の共同で開発された「ウェルウォーク」があります。

作業療法

作業療法は、日常生活における動作の自立を目的としたリハビリテーションです。

具体的には、以下のような内容を行います。

  • 日常生活動作訓練: 理学療法と同様に、着替え、食事、入浴など、日常生活動作に必要な動作を練習します。
  • 自助具の訓練: 食事介助具や入浴介助具など、日常生活で役立つ自助具の使い方を練習します。
  • 就労訓練: 将来の就労に向けて、必要な作業能力を訓練します。

言語療法

言語療法は、言語障害の改善を目的としたリハビリテーションです。

具体的には、以下のような内容を行います。

障害レベルによっては、呼吸障害が生じ、発語・発生が難しくなったり、麻痺によりコミュニケーションが取りづらくなっていまう方もいます。

そのような時には、言語聴覚療法が重要となります。

  • 発語訓練: 言葉の発音や文法、構文などを練習します。
  • 構音訓練: 舌や口唇などの運動機能を改善し、発音を明瞭にします。
  • 言語理解訓練: 話の内容を理解したり、指示に従ったりする訓練を行います。
  • コミュニケーション訓練: 家族や友人とのコミュニケーション方法を練習します。
  • 補助器具の訓練: 筆談ボードや音声合成装置などの補助器具の使い方を練習します。

心理療法

心理療法は、精神的なケアを目的としたリハビリテーションです。

もしも皆さんの身体に前触れもなく急に麻痺症状が出現し、今まで通りに動けなくなってしまったら、どのように感じるでしょうか?

「もう人生おしまいだ。」「良くなるのかな。」「家族のことはどうしよう」等など、不安に押しつぶされそうになると思います。

そのような状態で、効果的なリハビリができるでしょうか?難しいのでは無いでしょうか?

そこで、臨床心理士の先生により心理療法が重要になってきます。

具体的には、以下のような内容を行います。

  • カウンセリング: 脊髄梗塞による不安や葛藤などを話し、心のケアを行います。
  • 家族療法: 家族全体で脊髄梗塞について理解を深め、患者さんを支える方法を話し合います。
  • グループセラピー: 同じ経験を持つ患者さん同士で交流し、情報交換や励まし合いを行います。
  • 認知行動療法: 思考や行動パターンを改善することで、心の状態を安定させます。

まとめ

今回は、ひろみちおにいさんの報道を受け、こちらの記事を執筆しました。

脊髄梗塞は後遺症のリスクが高い病気ですが、適切なリハビリテーションを受けることで、社会復帰を目指すことが可能です。

ひろみちおにいさんのメッセージにもありましたが、今後は長い闘病生活が待っていることでしょう。

しかし、現在の医療の進歩は著しく、再生医療やロボティクス等、新しい技術がどんどん出てきています。

ひろみちおにいさんも元は「たいそうのおにいさん」です。

体を動かすこと、リハビリのポテンシャルはきっと持ち合わせているはずです。

いつの日か、また元気なひろみちおにいさんの姿を見られることを、待ちたいと思います。

私ができることはこの記事を書くことくらいしかできませんが、ひろみちおにいさんの回復を、心より祈っています。

ひろみちおにいさん!頑張ってください!!応援しています!!!

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