腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果〜vol.4 サルコペニアの改善~

医療

こんにちは、K田です!

先日は【腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果について〜vol.3~】と題して、【心臓副交感神経系の亢進】についてお話をしました。

今回は、腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果〜vol.4〜ということで

【サルコペニアの改善】

についてお話を進めていこうと思います。

K田
K田

この記事はこんな人にオススメです!

  • 腎臓リハビリテーションに興味のある方
  • サルコペニアについて知りたい人
  • 運動療法がサルコペニアの改善にどう影響するのか知りたい人

腎臓リハビリテーションとは?

まず、腎臓リハビリテーションについておさらいします。

腎臓リハビリテーションとは、CKD患者の身体機能や生活機能を改善するために、医師、理学療法士、作業療法士、栄養士などの専門チームが協力して行うプログラムです。運動療法、食事指導、心理社会的サポートなどを組み合わせることで、症状の改善、合併症の予防、QOLの向上などが期待できます。

今回は、この中の、運動療法の効果について話していきます。

サルコペニアについて

サルコペニアとは?

まず最初にサルコペニアについて説明していきます。

サルコペニアとは、加齢によって筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態です。

骨格筋量は25〜30歳頃から既に始まり、障害を通して徐々に進行していきます。

サルコペニアの主の要因は加齢ですが、サルコペニアを加速させる危険因子として、活動量不足、各種合併症、栄養不良が挙げられます。

CKDにおけるサルコペニアの頻度は、非透析患者で5.9〜15.4%、透析患者で13.7~33.7%と報告されています。

また、別の文献では、透析導入機の末期腎不全患者では70%がサルコペニアであるという報告もあり、CKD透析患者のサルコペニアの有病率は高いことが知られています。

サルコペニア診断について

2019年、アジア各国よりサルコペニアの研究者が集まり、その診断方法についての話し合いが行われました。

そこで報告されたのが、

Asian Working Group for Sarcopenia 2019(AWGS2019)

です。

現在、日本サルコペニア・フレイル学会で推奨されているのが、AWGS2019に基づいたサルコペニア診断です。

サルコペニアを診断するためには、筋力・身体機能・骨格筋量の3つの指標によって判定します。

握力・身体機能に関しては、いくつかの道具と場所があれば測定できますが、最終的にはDXAもしくはBIAで骨格筋量を測定する必要があります。

サルコペニアの判定は、筋肉量が減少していることが必須条件となり、筋力と身体機能がいずれか低下している場合にサルコペニア両方とも低下している場合に重症サルコペニアと判定されます。

AWGS2019
AWGS2019の基準値一覧

”引用:Chen LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment.J Am Med Dir Assoc. 2020 Feb 4. pii: S1525-8610(19)30872-2. [Epub ahead of print]”

サルコペニアになる原因

透析患者においてサルコペニアの有病率の高い要因は、CKD患者の筋肉減少が関連しています。

CKD患者では、元々運動不足から筋力・運動能が低下していることに加え、蛋白分解系の亢進があることが示されています。

蛋白分解を促進する要素として

  • 代謝性アシドーシス
  • 尿毒症
  • 飢餓・炎症
  • アンジオテンシンⅡ
  • インスリン抵抗性
  • 甲状腺ホルモンの異常

が挙げられています。

これらのいくつかのメカニズムについて現在私が調べてわかる範囲でお伝えします。

尿毒症による細胞内代謝変化

通常、筋細胞内では等が細胞内に取り込まれると、解糖系→TCA回路を介してエネルギー源となるATPを産生し、筋肉を維持します。

しかし、腎不全となり、細胞内に尿毒素が蓄積すると酸化ストレスを惹起し、それらから防御するための抗酸化防御経路が亢進します。

その代償応答によりTCA回路が停滞し、ミトコンドリアが傷害され、エネルギー産生が減少し、近酸性が行えず、筋萎縮に至ると言われています。

また、CKD患者では、体内に尿毒素が蓄積する人ほど、二年後の骨格筋量が減少することも同じ研究内で報告されております。

飢餓・炎症

飢餓=低栄養の状態では、当然筋肉量は減少の一途を迎えます。

人の生命活動を維持するために、栄養が不足していると、筋肉を分解してエネルギーを得ようとします。

そうするとどんどん筋肉は分解されてしまいます。

また、炎症値が高いことも、栄養状態悪化の要因となります。

人の体内では、炎症を抑えるためにもエネルギーを必要とします。

そのエネルギー=栄養が十分にある状態では問題ないのですが、低栄養の状態だと、先述同様に筋肉を分解してエネルギーを確保しようとします。

そして最終的には筋肉が減少し、サルコペニアの状態に陥ってしまうのです。

インスリン抵抗性

インスリンは蛋白同化(アミノ酸を集めてタンパク質を作る)ホルモンであり、それが欠乏すると、筋肉内の蛋白異化が亢進し、筋肉合成が低下します。

糖尿病の病態では、脂肪細胞から放出される遊離脂肪酸が、周囲のマクロファージ上に発言するトル様受容体:TLR(生体に侵入した病原体をいち早く感知し、発動する第一線の生体防御機構の1つ。微生物を感知する受容体。)に作用すると、炎症性物質が分泌され、インスリン抵抗性=インスリンが効きづらい状態が生じるとされています。

即ち、タンパク質を作る作用のあるインスリンが糖尿病の人では効果が低下してしまい、筋肉を分解する作用の方が勝ってしまうということです。

運動がサルコペニアに与える影響

抗炎症作用

運動の効果の1つに、抗炎症作用が報告されています。

30分以上の歩行を週5回、6ヶ月実施した群は、非実施群と比較して炎症性サイトカインの発生が少ないという研究結果が報告されています。

炎症性サイトカインは先述の通り筋肉の分解を促進する働きを持ちます。

その炎症性サイトカインが減少するということは、筋肉の分解が減少すると考えることができます。

インスリン感受性の改善

先ほど、インスリン抵抗性が筋の合成を低下させることをお話しました。

しかし、運動療法を実施することで、インスリンの感受性=効果が高まることが報告されています。

運動を行うことで脂肪の減少効果が期待できますが、インスリンの効果を低下させる諸悪の根源なのが脂肪なのです。

そのため、正確には運動を行う→脂肪が減る→インスリンが効きやすくなるということになります。

また、運動を行うことでGLUT4という物質が筋肉から分泌されます。

これは、インスリンの効果を高める作用があります。

ポパイで言うほうれん草、ワンピースのフランキーでいうコーラみたいなもんですね。

このGLUT4は運動を行うことでしか分泌されないので、運動がいかにインスリンの効果を高めるのに効果的かという強力な理由になります。

腎保護作用

CKD患者では、日常的に運動を行う患者群において、炎症性マーカーが低下することがわかっています。

つまり、運動を行うことで炎症が抑制され、腎機能が保護される言うことです。

ある研究でも、下の図のように運動を行った群で優位に腎機能が回復したと報告されています。

これは、運動により腎臓の糸球体への血流が促進されることや、血管内皮細胞から算出される一酸化窒素が増加することで、身体の血管や輸出細動脈を拡張し、糸球体にかかる圧が低下することがメカニズムとして説明されています。

肥満で慢性腎臓病の保存期の患者を無作為に2群に分ける。運動を行った群は腎機能が有意に改善し、運動を行わなかった群は悪化した。[Baria F.et.al.Nephrol Dial Transplant 29:6857-867,2014]

筋肉量の改善

適切な運動を行うと、当然筋肉量は改善します。

サルコペニアは、加齢に伴い筋肉が減少することで診断されます。

即ち、運動し筋肉量や筋力、身体機能が改善することで、サルコペニアの診断基準から外れることができます。

しかし、適切な効果を得るためには適切な栄養管理や運動負荷が必要であり、理学療法士や管理栄養士といった、専門職種のアドバイスを受けることが重要となります。

特にCKD・透析患者さんにおいては、よりこれらのそれら専門職の管理下での運動が重要となります。

まとめ

今回は、腎臓リハビリテーションにおける運動療法の効果〜vol.4 サルコペニアの改善~というテーマでお話を進めてきました。

サルコペニアの発症がフレイルのリスクにも繋がり、そこからADL・QOLの低下と、どんどんと負のサイクルに陥る可能性があるのがサルコペニアの恐ろしいところです。

特にCKD・透析患者さんはそのリスクが非常に高い患者群と言えるため、しっかりと身体機能や筋肉量のフォローを継続していくことが重要です。

本記事が、皆さんの腎臓リハビリテーション及びサルコペニアに対する知識の向上に繋がり、日々の臨床の一助になることができれば幸いです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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